皮膚の病気はとても数が多く、また診察時にすべてをお話しすることは難しいため、よくある病気の説明を記載しています。当院を受診される患者様の疾患理解と治療の一助となれば幸いです。気になることがあれば診察中に医師、看護師までお声かけください。
うっ滞性皮膚炎とは
傷ができると治療は長期に及ぶことも。
うっ滞(むくみ)の原因によっては、かかりつけ内科との連携や外科的治療が必要なケースもある。
うっ滞性皮膚炎(うったいせいひふえん)は、主に脚(特にすねや足首のあたり)の慢性的な血行不良によって引き起こされる皮膚の炎症です。静脈の弁の機能が低下したり、血栓ができたりすることで、血液が心臓に戻りにくくなり、脚の血管内に血液が滞留(うっ滞)してしまいます。この「うっ滞」した状態が長く続くと、血管から水分や炎症物質が漏れ出し、皮膚に様々な症状を引き起こします。
主な症状は、脚のむくみ、皮膚の赤み、かゆみ、色素沈着(皮膚が黒っぽくなる)、皮膚が硬くなる(硬結)、湿疹、そして進行すると潰瘍(かいよう)ができることもあります。初期には単なるむくみや軽度の赤み、かゆみで始まることが多いですが、放置すると症状が悪化し、皮膚が象の皮膚のようにゴワゴワになったり、治りにくい潰瘍を形成したりすることがあります。潰瘍ができると強い痛みや感染を伴い、日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、治癒に非常に時間がかかります。うっ滞性皮膚炎は、根本原因である血行不良を改善しない限り、症状が再発したり悪化したりする慢性的な病気です。早期に皮膚科専門医の診断を受け、適切な治療とセルフケアを開始することが、症状の悪化を防ぎ、快適な生活を送るために非常に重要です。
うっ滞性皮膚炎の主な原因と誘発要因
ポイント
うっ滞性皮膚炎は、脚の静脈の血液循環が悪くなることが根本的な原因です。血液がうっ滞する状態を悪化させる様々な要因が、皮膚症状を引き起こしたり、進行させたりします。
主な原因
慢性的な静脈うっ滞:
脚の静脈には、血液が重力に逆らって心臓に戻るのを助ける「弁」があります。この弁の機能が加齢や病気によって低下したり、血栓によって静脈が詰まったりすると、血液が脚に滞留し、血管内の圧力が高まります。この高まった圧力が持続することで、血管から水分や炎症を起こす物質が皮膚組織に漏れ出し、炎症が引き起こされます。
日常生活で症状を悪化させる誘発要因
・加齢:静脈の弁は加齢とともに機能が低下しやすくなるため、高齢者でうっ滞性皮膚炎の発症リスクが高まります。
・長時間同じ姿勢での作業:
・立ち仕事:長時間立ったままでいると、重力の影響で脚に血液が滞留しやすくなります。
・座り仕事:長時間座ったままでいると、ふくらはぎの筋肉を使う機会が減り、血液を心臓に戻すポンプ作用が弱まります。
・運動不足:ふくらはぎの筋肉(第二の心臓と呼ばれる)を動かさないと、静脈の血液を心臓に送り返すポンプ機能が低下し、うっ滞を招きます。
・肥満:体重が増えると、脚への負担が増し、静脈にかかる圧力も高まるため、血行不良が悪化しやすくなります。
・妊娠:妊娠中は子宮が大きくなることで骨盤内の血管が圧迫されたり、ホルモンバランスの変化によって血管が拡張しやすくなったりするため、うっ滞性皮膚炎のリスクが高まることがあります。
・過去の病歴:
・深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の既往:脚の深部静脈に血栓ができたことがある場合、静脈の弁が損傷し、慢性的なうっ滞につながりやすくなります。
・下肢静脈瘤:静脈の弁が壊れて血液が逆流し、静脈がボコボコと膨らむ病気です。うっ滞性皮膚炎の主な原因の一つです。
・心不全、腎不全:全身のむくみを伴うこれらの病気は、脚のむくみを悪化させ、うっ滞性皮膚炎の誘発要因となります。
・皮膚の乾燥・かゆみ:うっ滞によって皮膚が乾燥しやすくなり、かゆみを感じやすくなります。掻き壊すことで皮膚のバリア機能がさらに低下し、湿疹や感染を悪化させる可能性があります。
「うっ滞性皮膚炎は単なるむくみ」「かゆいから掻けば大丈夫」といった誤解がありますが、根本的な血行不良を改善しない限り、症状は悪化の一途をたどる可能性があります。
うっ滞性皮膚炎の治療法
主な治療法
うっ滞性皮膚炎の治療は、根本原因である脚の静脈うっ滞を改善すること、そして皮膚の炎症を抑え、むくみを軽減し、潰瘍がある場合はその治癒を促進することが主な目的です。症状の改善だけでなく、再発予防のための継続的なケアが非常に重要となります。当院では、患者さん一人ひとりの症状の重症度、むくみの程度、皮膚の状態、ライフスタイルなどを総合的に評価し、最適な治療プランをご提案しています。
圧迫療法(弾性ストッキング・弾性包帯)
・方法:
脚に適度な圧力を加えることで、静脈の血液が逆流するのを防ぎ、心臓への血液の戻りを助けます。これにより、むくみを軽減し、皮膚への水分や炎症物質の漏れ出しを抑えます。
・特徴:
うっ滞性皮膚炎治療の最も基本となる治療法です。医療用の弾性ストッキングは、足首から太ももにかけて段階的に圧力が弱くなるように設計されています。朝起きてむくむ前に装着し、就寝時に外します。
・メリット:
血行改善に直接的かつ効果的。外用薬の効果も高める。
・デメリット:
装着に手間がかかる。夏場は暑く感じることもある。適切な圧迫圧やサイズを選ぶことが重要です。当院では、適切なストッキングの選び方や履き方について丁寧に指導します。
外用薬(塗り薬)
・ステロイド外用薬:
皮膚の炎症や湿疹、かゆみを抑えるために使用されます。むくみや色素沈着が顕著な場合も、炎症を鎮める目的で処方されます。
・保湿剤:
乾燥した皮膚はバリア機能が低下し、かゆみや炎症を悪化させるため、保湿剤で皮膚に潤いを与え、バリア機能を補います。
・潰瘍治療薬:
傷など潰瘍ができている場合は、肉芽形成を促す軟膏や、細菌感染を防ぐための軟膏などが使用されます。
内服薬(飲み薬)
・抗ヒスタミン薬:
かゆみが強い場合に処方されます。
・抗菌薬:
傷や潰瘍が細菌感染を起こしている場合や、皮膚炎が化膿している場合に処方されます。
・漢方薬:
炎症やかゆみ、乾燥、体質改善、むくみ軽減を図る目的で処方する場合があります。
潰瘍の処置(専門的なケア)
潰瘍ができている場合は、専門的な処置が必要です。壊死組織の除去(デブリードマン)、適切な被覆材(ドレッシング材)の選択と交換、洗浄などを行い、治癒に適した湿潤環境を保ちます。感染が疑われる場合は、定期的に細菌培養検査を行います。
原因疾患の治療
下肢静脈瘤が原因の場合は、その治療(硬化療法、レーザー治療、手術など)を検討することで、根本的な改善につながります。当院から専門施設への紹介も可能です。
心不全や腎不全など、全身性の疾患がむくみの原因となっている場合は、その疾患の治療を並行して行うことが重要です。
生活習慣改善アドバイス
・適度な運動:ふくらはぎの筋肉を使う運動(ウォーキング、足首の曲げ伸ばしなど)は、血行促進に非常に効果的です。
・足を挙上する:寝るときや休憩するときは、クッションなどで足を心臓より高くすることで、むくみの軽減に役立ちます。心不全の患者様では注意が必要。
・長時間同じ姿勢を避ける:定期的に休憩を取り、脚を動かしましょう。
当院では、皮膚科専門医である院長が常駐しており、うっ滞性皮膚炎の診断と治療に関して豊富な経験と知識を持っています。患者さんの症状を正確に診断し、血行不良という根本原因へのアプローチと、皮膚症状への治療を組み合わせた最適な治療計画を立てます。患者さんが安心して治療に取り組めるよう、丁寧な説明と継続的なサポートを心がけています。
日常生活でできること・セルフケアのポイント
具体的な対策
うっ滞性皮膚炎の症状を和らげ、悪化を防ぎ、再発を予防するためには、毎日の正しいセルフケアが非常に重要です。特に脚の血行を改善するための工夫が大切です。
圧迫療法の徹底(弾性ストッキングの着用)
医師に指示された適切な圧迫圧とサイズの医療用弾性ストッキングを着用しましょう。 朝、起き上がる前にむくんでいない状態で着用し、就寝時に外します。しわにならないように丁寧に履き、指の付け根から足首、ふくらはぎ、太ももまで均一に圧力がかかるようにしましょう。弾性ストッキングは、静脈の弁の機能を補助し、血液の逆流を防ぎ、脚の血液を心臓に戻すのを助けることで、むくみや皮膚への炎症物質の漏れ出しを軽減します。これがうっ滞性皮膚炎の悪化を防ぐ最も重要な対策です。
適度な運動と足を動かす習慣
ふくらはぎの筋肉を使う運動を積極的に行いましょう。ウォーキングや散歩を日課にするのが理想的です。座り仕事や立ち仕事が多い場合は、1時間に数回、足首を回したり、つま先立ちやかかと上げを繰り返したりするなど、こまめに脚を動かすようにしましょう。
ふくらはぎの筋肉は「第二の心臓」と呼ばれ、収縮と弛緩を繰り返すことで、脚の静脈の血液を心臓に送り返すポンプ作用を果たしています。この作用が活発になることで、うっ滞が改善されます。
足を挙上する習慣
寝るときや休憩するときは、足を心臓より高い位置に置きましょう。足元にクッションや座布団などを置いて、足首が心臓より高くなるようにします。約10~15cm高くするだけでも効果があります。重力の影響を軽減し、脚に滞留した血液が心臓に戻りやすくなるため、むくみの軽減に効果的です。心不全の患者様では注意が必要。
皮膚の清潔と保湿
患部の皮膚を清潔に保ち、乾燥を防ぎましょう。低刺激性の石鹸で優しく洗い、入浴後はタオルでそっと水気を拭き取り、すぐに保湿剤を塗布しましょう。かゆみがあっても掻きむしらず、冷やしたり、医師から処方された外用薬を塗ったりします。
湿潤や乾燥は皮膚のバリア機能を低下させ、かゆみや炎症を悪化させる原因になります。掻き壊しは皮膚を傷つけ、潰瘍や細菌感染のリスクを高めます。
長時間同じ姿勢を避ける
長時間立ったまま、あるいは座ったままの姿勢を避けましょう。長時間同じ姿勢でいると、脚の筋肉が使われず、重力の影響で血液が滞留しやすくなるためです。
体重管理とバランスの取れた食事
適正体重を維持し、バランスの取れた食事を心がけましょう。肥満は脚への負担を増やし、静脈うっ滞を悪化させる可能性があります。また、栄養状態の良好な皮膚は治癒力が高いです。
やってはいけないこと・避けるべきこと
・症状を放置する:
初期症状のむくみや軽度の皮膚症状を放置すると、悪化して治りにくい潰瘍を形成することがあります。
・かゆみがあっても掻き壊す:
皮膚を傷つけ、細菌感染や潰瘍のリスクを高めます。
・自己判断で薬の使用や圧迫療法を中断する:
症状が改善しても、医師の指示なく治療を中断すると、必ず再発したり悪化したりします。
・締め付けの強い衣類や靴下を着用する:
脚の血行をさらに悪化させる可能性があります。
・熱すぎるお風呂や長時間の入浴:
血行が良くなりすぎると、一時的にむくみや炎症が悪化することがあります。
よくある質問(FAQ)
うっ滞性皮膚炎は自然に治りますか?
残念ながら、うっ滞性皮膚炎が自然に完全に治ることはほとんどありません。原因が脚の慢性的な静脈うっ滞にあるため、その根本原因を改善しない限り、症状は再発したり、悪化したりする傾向にあります。初期のむくみや軽度の皮膚症状の段階で適切な治療とセルフケアを開始することが、症状の進行を防ぎ、良好な状態を維持するために非常に重要です。
うっ滞性皮膚炎は人にうつりますか?
いいえ、うっ滞性皮膚炎は人から人へうつる病気ではありません。これは、感染症ではなく、脚の血行不良が原因で起こる皮膚の炎症です。そのため、ご家族や周囲の方に感染する心配はありませんのでご安心ください。
うっ滞性皮膚炎と水虫や湿疹は見分けがつきにくいですか?
はい、うっ滞性皮膚炎は、その症状(かゆみ、赤み、皮むけなど)が水虫(足白癬)や他の湿疹と似ているため、見分けがつきにくいことがあります。特に足に症状が出ている場合、患者さん自身で水虫や単なる湿疹と自己判断し、市販薬で治療されているケースも少なくありません。しかし、適切な治療を行うためには、正確な診断が不可欠です。皮膚科専門医は、症状の現れ方や足のむくみ、静脈の状態などを総合的に診察し、必要に応じて顕微鏡検査(水虫の鑑別のため)などを行って正確に診断します。
弾性ストッキングは、どれくらいの期間着用すれば良いですか?
弾性ストッキングの着用期間は、患者さんのうっ滞性皮膚炎の重症度や根本原因によって異なりますが、基本的には症状が改善した後も、再発予防のために長期間(数ヶ月~数年、あるいは生涯)継続して着用することが推奨されます。特に、長時間立ったり座ったりする方、下肢静脈瘤がある方などは、日常的に着用することでむくみの悪化を防ぎ、うっ滞性皮膚炎の再発を予防できます。着用の中止については、必ず医師の指示に従ってください。
脚のむくみがひどいのですが、うっ滞性皮膚炎につながりますか?
はい、脚のむくみはうっ滞性皮膚炎の初期症状であり、放置するとうっ滞性皮膚炎に進行する可能性が非常に高いです。特に、夕方になると脚がパンパンになる、靴下の跡がなかなか消えない、などのむくみが慢性的に続く場合は、静脈うっ滞が起きているサインかもしれません。むくみを放置せず、早期に医療機関を受診し、むくみの原因を特定して対処することが、うっ滞性皮膚炎の予防につながります。
うっ滞性皮膚炎の症状が進んで潰瘍ができてしまいました。治りますか?
うっ滞性皮膚炎が進行してできる潰瘍は、「下腿潰瘍(かたいかいよう)」と呼ばれ、非常に治りにくいのが特徴です。しかし、適切な治療と専門的なケアを継続すれば、治癒は十分に可能です。治療には、壊死組織の除去、適切な被覆材の使用、感染のコントロール、そして圧迫療法による根本的な血行改善が不可欠です。治癒までには数ヶ月から年単位の時間がかかることもありますが、諦めずに根気強く治療に取り組むことが重要です。
このような場合はご相談ください
以下のような症状や状況に当てはまる場合は、一人で悩まず、お気軽に当院にご相談ください。
脚(特にすねや足首のあたり)にむくみ、赤み、かゆみ、皮膚の黒ずみがある
むくみが慢性的に続き、夕方になると特にひどくなる
脚の皮膚がカサカサしたり、ジュクジュクした湿疹ができたりしている
脚に治りにくい潰瘍ができてしまった
過去に深部静脈血栓症や下肢静脈瘤の経験がある
長時間立ち仕事や座り仕事をしており、脚の症状が気になる
ご自身の症状がうっ滞性皮膚炎なのか、他の皮膚病なのか判断に迷う
うっ滞性皮膚炎の診断を受けたが、治療法や日常生活での注意点について詳しく知りたい
弾性ストッキングの選び方や履き方についてアドバイスが欲しい
24時間WEB予約受付中
うっ滞性皮膚炎は、根本原因である血行不良を改善することで、症状をコントロールし、快適な生活を取り戻せる可能性が高まります。当院の皮膚科専門医が、患者さん一人ひとりの症状と状況を正確に診断し、最適な治療法と生活指導をご提案いたします。「ここに来れば大丈夫」と安心していただけるよう、全力でサポートさせていただきますので、どんな些細なことでもお声がけください。
監修医情報
略歴
-
2003年
名古屋工業大学 卒業後
愛知県名古屋市の建築設計会社 勤務 -
2008年
琉球大学医学部 入学
-
2014年
ハートライフ病院 初期研修
-
2016年
琉球大学皮膚科 入局
皮膚科学講座助教、病棟医長を経て -
2023年
沖縄皮膚科医院 開業
資格・所属学会
- 日本皮膚科学会
- 日本小児皮膚科学会
- 日本アレルギー学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本皮膚悪性腫瘍学会
- 日本皮膚免疫アレルギー学会
- 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
- 日本皮膚科学会認定皮膚科指導医
- 難病指導医
- 小児慢性特定疾病指定医