皮膚の病気はとても数が多く、また診察時にすべてをお話しすることは難しいため、よくある病気の説明を記載しています。当院を受診される患者様の疾患理解と治療の一助となれば幸いです。気になることがあれば診察中に医師、看護師までお声かけください。
爪囲炎・ひょう疽とは
手や足の指先(爪周囲)の強い赤み、熱感、腫れ、そして痛みの症状。
慢性化すると爪が変形するケースも。
爪囲炎(そういえん)は、爪の周りの皮膚(爪郭部)に細菌や真菌(カビ)、ウイルス(ヘルペス)などが感染して炎症を起こす病気です。一般的には「ひょう疽(ひょうそ)」と呼ばれることもあり、指先や爪の周りに赤み、腫れ、ズキズキとした痛みが生じ、進行すると膿(うみ)がたまることがあります。手の指にできることが最も多いですが、足の指にも発症することがあります。
爪囲炎には、急激に症状が現れる急性爪囲炎と、ゆっくりと進行し、慢性的に続く慢性爪囲炎があります。
・急性爪囲炎:
ささくれ、深爪、爪を噛む癖、指しゃぶり、小さな傷などが原因で細菌(主に黄色ブドウ球菌やレンサ球菌)が侵入して起こります。多くの場合、感染から数日以内に痛み、赤み、腫れが急速に悪化し、膿がたまることがあります。
・慢性爪囲炎:
水仕事が多い方や、アトピー性皮膚炎などで手が荒れている方に多く見られます。カンジダ菌などの真菌や、刺激物質への接触、アレルギーなどが複雑に絡み合って起こることが多いです。症状は急性ほど激しくありませんが、爪の変形(デコボコ、変色など)を伴うことがあります。
爪囲炎は、放置すると痛みが強くて眠れなくなったり、日常生活に支障をきたしたりするだけでなく、感染が爪の下や指の奥深くまで広がり、骨髄炎やリンパ管炎といった重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。特に、糖尿病などの基礎疾患がある方は、感染が重症化しやすい傾向があるため注意が必要です。自己判断せずに、早期に診断を受け、適切な治療を開始することが、症状の悪化を防ぎ、合併症のリスクを減らすために非常に重要です。
爪囲炎・ひょう疽の主な原因と誘発要因
ポイント
爪囲炎は、爪の周りの皮膚にできた小さな傷から細菌などが侵入し、感染することで発症します。皮膚のバリア機能が低下している状態や、水・化学物質に触れる機会が多いことなどが、感染のリスクを高めます。
主な原因菌とタイプ
・細菌性爪囲炎(急性爪囲炎の多く):主に黄色ブドウ球菌やレンサ球菌といった、皮膚に常在している細菌が原因となります。
・真菌性爪囲炎(慢性爪囲炎の多く):主にカンジダ菌というカビ(真菌)の一種が原因となります。カンジダ菌は湿った環境を好みます。水仕事の多い人がかかりやすい。
・ウイルス性爪囲炎:まれに、単純ヘルペスウイルスが原因で起こることもあります(ヘルペス性ひょう疽)。水ぶくれの集まりが特徴です。
日常生活で爪囲炎・ひょう疽を誘発・悪化させる要因
皮膚の小さな傷:
・ささくれ(さかむけ):指のささくれを無理にむしり取ると、傷口から細菌が侵入しやすくなります。
・深爪:爪を短く切りすぎると、爪の角が皮膚に食い込み、傷ができることがあります。
・爪噛み、指しゃぶり:爪を噛む癖や指しゃぶりは、指先の皮膚に常に刺激を与え、小さな傷を作りやすくしたり、唾液によって湿潤な環境を作り、細菌や真菌の増殖を促したりします。
・爪のトラブル:
・陥入爪(かんにゅうそう):爪の端が周囲の皮膚に食い込んで炎症を起こし、細菌感染を併発することがあります。
・巻き爪:爪が内側に巻くことで、爪の端が皮膚に当たり、傷を作りやすくなります。
・水仕事・化学物質への接触:
食器洗い、洗濯、清掃、料理など、水やお湯、洗剤に触れる機会が多いと、皮膚のバリア機能が損なわれやすくなります。特に、強力な洗剤は皮膚を乾燥させ、傷つきやすくします。美容師や医療従事者など、手を使う専門職の方に多く見られます。
・ネイルケアによるダメージ:
マニキュア、ジェルネイル、アクリルネイルなどを頻繁に施すこと。甘皮処理の際の過度な刺激や、爪周りの皮膚を傷つける行為。除光液の頻繁な使用も、爪や皮膚を乾燥させ、バリア機能を低下させます。
・免疫力の低下:
疲労、ストレス、睡眠不足、加齢、糖尿病などの基礎疾患、ステロイド剤や免疫抑制剤の使用などにより体の免疫力が低下していると、感染しやすくなったり、症状が悪化しやすくなったりします。
・手荒れ・乾燥:
手荒れや乾燥は皮膚のバリア機能を低下させ、細菌が侵入しやすくなります。
「爪囲炎は放置しても治る」「市販薬で様子を見れば大丈夫」といった誤解がありますが、自然治癒することは稀であり、適切な治療が遅れると悪化する可能性が高い病気です。
爪囲炎・ひょう疽の治療法
主な治療法
爪囲炎の治療は、原因となっている感染を排除し、炎症を鎮め、痛みや腫れを和らげることが主な目的です。症状の重症度や原因菌の種類によって、治療法が異なります。特に膿がたまっている場合は、早期の処置が非常に重要です。
外用薬(塗り薬)
・抗菌薬外用薬:細菌感染が原因の場合に処方されます。患部に直接塗布し、細菌の増殖を抑えます。
・抗真菌薬外用薬:カンジダ菌などの真菌感染が原因の場合に処方されます。慢性爪囲炎に用いられることが多いです。
・ステロイド外用薬:炎症が強い場合や、アレルギー性の炎症が関与している場合に、炎症を抑える目的で併用されることがあります。
内服薬(飲み薬)
・抗菌薬内服薬:炎症が強い場合、膿瘍を形成している場合、全身症状(発熱など)を伴う場合、外用薬だけでは効果が不十分な場合などに処方されます。原因菌に合わせた適切な抗菌薬を、医師の指示通りに服用し続けることが重要です。
・抗真菌薬内服薬:慢性爪囲炎で外用薬で効果が出にくい場合や、爪自体の変形が強い場合に検討されることがあります。
・鎮痛剤:痛みが強い場合に、解熱鎮痛剤が処方されることがあります。
・漢方薬:炎症や鎮痛効果を高める目的で処方する場合があります。
外科的処置(排膿・切開)
爪の周囲に膿がたまっている場合、皮膚表面をわずかに切ったり(切開)、針で刺したり(穿刺)して膿を排出する処置(排膿)を行います。膿を排出することで、即座に痛みや腫れが軽減されることが多いです。感染源を除去し、治癒を促進します。
原因の特定と対策
・細菌培養検査:膿が出ている場合、細菌の種類を特定するための検査を行うことがあります。これにより、より効果的な抗菌薬を選択できます。
・顕微鏡検査:真菌感染が疑われる場合、患部の皮膚や爪の一部を採取し、顕微鏡で菌の有無を確認します。
・生活習慣の改善指導:爪の切り方、水仕事時の手袋使用、爪噛み癖の改善など、原因となる生活習慣について具体的に指導します。
・陥入爪・巻き爪の治療:これらが原因で爪囲炎を繰り返す場合は、テーピング療法、ワイヤー矯正、あるいは部分的な爪切除など、根本的な爪の治療を検討します。
当院では、皮膚科専門医である院長が常駐しており、爪囲炎(ひょう疽)の診断と治療に関して豊富な経験と知識を持っています。患者さんの症状を正確に診断し、迅速かつ的確な治療を提供するとともに、再発予防のための生活指導も丁寧に行います。患者さんが安心して治療に取り組めるよう、きめ細やかなサポートを心がけています。
日常生活でできること・セルフケアのポイント
具体的な対策
爪囲炎の治療効果を高め、症状の悪化を防ぎ、再発を予防するためには、毎日の正しいセルフケアが非常に重要です。特に爪と指先の清潔保持と保護を心がけましょう。
爪と指先の清潔保持
爪の周りを常に清潔に保ちましょう。毎日、石鹸をよく泡立てて指先まで丁寧に手洗い(または足洗い)し、特に爪の生え際や指の間までしっかりと洗いましょう。洗い残しがないように、流水で十分にすすぎます。細菌や真菌は不潔な環境で増殖しやすいため、清潔を保つことで感染リスクを減らします。
水気を完全に拭き取る
手洗い後や入浴後は、爪の周りを含め、指先を完全に乾燥させましょう。清潔なタオルで水分を丁寧に拭き取り、指の間までしっかり乾燥させます。水仕事の後も同様です。湿った環境は細菌や真菌(特にカンジダ菌)が増殖しやすい条件となり、慢性爪囲炎の原因となることがあります。
爪の適切なケア
爪は適切な長さに切り、深爪や巻き爪にならないように注意しましょう。爪切りで爪の先をまっすぐ切る「スクエアオフ」を基本とし、切りすぎないようにします。爪の角が皮膚に食い込まないように、やすりで軽く整えるのも良いでしょう。ささくれは無理にむしり取らず、清潔な爪切りやハサミで根元から丁寧に切り取りましょう。深爪やささくれ、陥入爪、巻き爪は、皮膚に小さな傷を作り、細菌の侵入経路となるため注意しましょう。
水仕事や化学物質から手を保護する
水仕事や洗剤、化学薬品などを扱う際は、必ず手袋を着用しましょう。ゴム手袋の中に綿手袋を着用すると、ゴムの刺激や蒸れを防ぎ、より効果的です。特に指先を保護できるよう、指先にゆとりのあるタイプを選びましょう。
保湿ケア
手荒れや乾燥は皮膚のバリア機能を低下させます。こまめに保湿ケアを行いましょう。手洗い後や乾燥を感じるたびに、ハンドクリームや保湿剤を塗布し、爪の周りにも優しくなじませましょう。皮膚のバリア機能を健康に保つことで、外部からの細菌や真菌の侵入を防ぎます。
やってはいけないこと・避けるべきこと
・膿がたまった患部を自分で潰す:細菌感染を悪化させたり、より深部に感染を広げたり、治りにくい傷跡を残したりする危険性があります。必ず医療機関を受診しましょう。
・深爪を繰り返す:爪囲炎の再発リスクを高めます。
・症状を放置する:炎症が深部に広がり、骨にまで達すると、治療が非常に困難になることがあります。
よくある質問(FAQ)
爪囲炎は自然に治りますか?
いいえ、爪囲炎は自然に治ることは稀です。特に細菌感染が原因の場合、放置すると膿が溜まったり、感染が指の奥深くまで進行したりする可能性があります。重症化すると、骨髄炎やリンパ管炎といった合併症を引き起こすこともあります。赤みや痛みに気づいたら、早めに皮膚科を受診し、適切な治療を開始することが非常に重要です。
爪囲炎とひょう疽は同じ病気ですか?
はい、「爪囲炎」と「ひょう疽(ひょうそ)」は、ほぼ同じ意味で使われることが多い言葉です。ひょう疽は、指先に生じる細菌感染による化膿性炎症全般を指し、その多くが爪の周りに発生することから、爪囲炎と混同して使われます。医学的には、爪の周りの炎症を「爪囲炎」、指先の腹側まで膿が広がった重症のものを「ひょう疽」と使い分けることもありますが、いずれにしても皮膚科での適切な診断と治療が必要です。
爪囲炎は人にうつる病気ですか?
いいえ、爪囲炎は人から人へ直接うつる病気ではありません。多くの場合、患者さん自身の皮膚に常在している細菌が、小さな傷から侵入して起こる感染症です。ただし、原因が真菌(カンジダ菌など)やヘルペスウイルスである場合は、接触によって感染する可能性がゼロではありませんが、一般的に言われるような「うつる」病気とは異なります。過度に心配する必要はありません。
爪囲炎の膿は自分で出してはいけませんか?
爪囲炎の膿は、自分で無理に出してはいけません。膿を自分で潰そうとすると、細菌がさらに奥に押し込まれて感染が悪化したり、皮膚を傷つけて細菌感染を広げたり、治りにくい傷跡を残したりする危険性があります。膿がたまっている場合は、皮膚科を受診し、医師による専門的な処置(切開排膿)を受けましょう。膿を出すことで、痛みや腫れが劇的に改善することが多いです。
深爪や巻き爪が原因で爪囲炎になると聞きました。どうすれば予防できますか?
はい、深爪や巻き爪は爪囲炎の大きな原因となります。予防のためには、以下の点に注意しましょう。
・正しい爪の切り方を習得する:爪は深爪にせず、指先と同じくらいの長さにまっすぐ切る「スクエアオフ」を心がけましょう。爪の角を丸く切りすぎると、皮膚に食い込みやすくなります。
・巻き爪・陥入爪をケアする:巻き爪や陥入爪がある場合は、自分で無理に処置せず、皮膚科で適切な治療(テーピング、ワイヤー矯正、場合によっては手術など)を受けましょう。
・爪の周りを保湿する:乾燥によるささくれも原因となるので、爪の周りにもハンドクリームなどで保湿を心がけましょう。
爪囲炎の治療期間はどれくらいかかりますか?
爪囲炎の治療期間は、症状の重症度や原因、治療開始のタイミングによって異なります。
・軽症の急性爪囲炎:
抗菌薬の外用薬や内服薬で、数日から1週間程度で改善が見られることが多いです。膿がたまっていれば、排膿処置をすることで痛みがすぐに和らぎます。
・重症の急性爪囲炎や慢性爪囲炎:
治療が長引き、数週間から数ヶ月かかることもあります。特に慢性爪囲炎は、生活習慣の改善も必要となるため、根気強く治療を続けることが大切です。
症状が改善しても、再発を防ぐために、医師の指示に従って最後まで薬を使い切ったり、生活習慣の改善を継続したりすることが重要です。
このような場合はご相談ください
以下のような症状や状況に当てはまる場合は、一人で悩まず、お気軽に当院にご相談ください。
爪の周りが赤く腫れている、ズキズキと痛む、熱を持っている
爪の周りに膿がたまっている、または黄色っぽくなっている
症状が急速に悪化している、または広範囲に広がっている
発熱など、全身症状を伴う
深爪、ささくれ、爪噛み、水仕事、ネイルケアなどが原因で爪の周りに炎症が起きている
陥入爪や巻き爪があり、それが原因で爪の周りが痛む
市販薬を試したが、症状が改善しない、あるいは悪化している
糖尿病などの基礎疾患があり、指先の感染が心配な方
爪囲炎の正しい治療法や、日常生活での注意点、再発予防について詳しく知りたい
24時間WEB予約受付中
爪囲炎(ひょう疽)は、早期診断・早期治療が非常に重要です。当院の皮膚科専門医が、患者さん一人ひとりの症状と状況を正確に診断し、迅速かつ最適な治療法をご提案いたします。膿がある場合は排膿処置を行うことで、すぐに痛みが和らぐことが多いです。「ここに来れば大丈夫」と安心していただけるよう、全力でサポートさせていただきますので、どんな些細なことでもお声がけください。
監修医情報
略歴
-
2003年
名古屋工業大学 卒業後
愛知県名古屋市の建築設計会社 勤務 -
2008年
琉球大学医学部 入学
-
2014年
ハートライフ病院 初期研修
-
2016年
琉球大学皮膚科 入局
皮膚科学講座助教、病棟医長を経て、 -
2023年
沖縄皮膚科医院 開業
資格・所属学会
- 日本皮膚科学会
- 日本小児皮膚科学会
- 日本アレルギー学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本皮膚悪性腫瘍学会
- 日本皮膚免疫アレルギー学会
- 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
- 日本皮膚科学会認定皮膚科指導医
- 難病指導医
- 小児慢性特定疾病指定医