皮膚の病気はとても数が多く、また診察時にすべてをお話しすることは難しいため、よくある病気の説明を記載しています。当院を受診される患者様の疾患理解と治療の一助となれば幸いです。気になることがあれば診察中に医師、看護師までお声かけください。
疥癬とは
肉眼では見えないダニの感染症。
高齢者施設やご家庭内で流行し、強いかゆみで睡眠障害になることも。
疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニ(疥癬虫)という非常に小さなダニが皮膚の角質層に入り込み、寄生することで起こる皮膚の病気です。肉眼ではほとんど見えないほどの小さなダニですが、皮膚の中でトンネルを掘り、卵を産み、糞をすることで、強いかゆみと様々な皮膚症状を引き起こします。
疥癬には主に二つのタイプがあります。
・通常疥癬:
比較的少数のダニが寄生しているタイプで、かゆみが強く、夜間に特に増悪するのが特徴です。指の間、手のひら、手首、肘、わきの下、お腹、股間、お尻、膝の裏などに赤い小さなブツブツ(丘疹)や線状の皮疹(トンネル、疥癬トンネル)ができます。
・角化型疥癬(ノルウェー疥癬):
免疫力が著しく低下している方(高齢者、寝たきりの方、ステロイド治療中の方など)に発症しやすいタイプです。数百万~数億匹という非常に多くのダニが寄生するため、皮膚がガサガサと厚くなり、フケのようにボロボロとはがれ落ちるようになります。かゆみが少ない、あるいはほとんどないこともありますが、非常に感染力が強く、集団感染の原因となることがあります。
疥癬は、適切な診断と治療が遅れると、強いかゆみによって睡眠障害や精神的苦痛を引き起こしたり、掻き壊しによる細菌感染を併発したりする可能性があります。特に角化型疥癬は感染力が非常に強く、家族や介護者、病院・施設内での集団感染につながる危険性があるため、早期に皮膚科専門医の診断を受け、適切な治療と感染対策を開始することが非常に重要です。
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疥癬の主な原因と誘発回線
ポイント
疥癬の直接的な原因は、ヒゼンダニ(疥癬虫)というダニの感染です。このダニが人の皮膚に寄生し、増殖することで症状が発現します。
主な原因
・ヒゼンダニ(疥癬虫)の感染:
ヒゼンダニが皮膚の角質層に潜り込み、そこで生活することで、体内でアレルギー反応や炎症が引き起こされます。
・ヒトヒゼンダニ:人の皮膚にのみ寄生するダニで、主に人から人へ感染します。
・動物疥癬:犬や猫などの動物に寄生するダニが一時的に人に寄生することもありますが、これは皮膚を掘り進む能力が低く、通常は数日で自然に治まります。動物からの感染が疑われる場合は、皮膚科へ相談をするようにしてください。
・接触感染:
疥癬の主な感染経路は、感染している人との直接的かつ長時間にわたる皮膚と皮膚の接触です。
・手と手:介護や医療現場での直接介助、添い寝など、皮膚が長時間密着することで感染します。
・寝具・衣類:感染者が使用した布団、シーツ、毛布、衣類、タオルなどを共有することでも間接的に感染する可能性があります。特に、ダニの数が非常に多い角化型疥癬(ノルウェー疥癬)の患者さんからは、短時間の接触や寝具の共有でも感染するリスクが極めて高いため注意が必要です。
日常生活で症状を悪化させる誘発要因
・免疫力の低下:高齢者、寝たきりの方、糖尿病などの基礎疾患がある方、ステロイド剤や免疫抑制剤を長期服用している方など、免疫力が低下している方は、ヒゼンダニが増殖しやすく、特に角化型疥癬に移行するリスクが高まります。
・不適切な衛生管理:高齢者施設や病院などで、疥癬患者の寝具や衣類の交換、清掃が不十分だと、ダニが環境中に広がり、集団感染につながる可能性があります。
・集団生活:病院、介護施設、グループホーム、寮など、多くの人が集団で生活する場所では、感染者がいると他の人への感染が広がりやすい傾向があります。
・診断の遅れ:疥癬と診断されずに湿疹や乾燥肌として治療されている期間が長いと、ダニが増殖し、症状が悪化したり、周囲への感染源となったりする可能性があります。
・掻き壊し:強いかゆみで皮膚を掻き壊すことで、皮膚のバリア機能がさらに損なわれ、二次的な細菌感染を併発するリスクが高まります。
「疥癬は不潔だからかかる病気だ」「清潔にしていれば治る」といった誤解がありますが、どんなに清潔にしていても感染する可能性があり、自然治癒することはほとんどありません。適切な治療と感染対策が不可欠です。
疥癬の治療法
主な治療法
疥癬の治療は、皮膚に寄生しているヒゼンダニを確実に駆除することが主な目的です。症状が改善したように見えても、ダニが完全にいなくなっていないと再発したり、他の人にうつしてしまったりする可能性があるため、根気強く治療を続けることが非常に重要です。当院では、患者さんの疥癬の種類(通常疥癬か角化型疥癬か)、症状の重症度、感染部位、周囲への感染状況などを総合的に評価し、最適な治療プランをご提案しています。
外用薬(塗り薬)
・フェノトリンローション(スミスリンローション®︎):
ダニの神経系に作用し、駆除する薬剤です。原則として、週に1回、入浴後に首から下の全身に塗布し、12時間後に洗い流すという方法を、数回繰り返します。塗布後、洗い流すまでは入浴やシャワーを控える必要があります。
・ステロイド外用薬:
強いかゆみや炎症が目立つ場合に、一時的にかゆみや湿疹症状を和らげる目的で併用されることがあります。ただし、ステロイド単独ではダニを駆除できないため、必ずダニ駆除薬と併用するか、ダニ駆除治療後に使用します。
内服薬(飲み薬)
・イベルメクチン(ストロメクトール®︎):
ヒゼンダニに非常に高い駆除効果を示す内服薬です。体重に応じて服用量が決まり、通常は1週間間隔で2回服用します。特に、ダニの数が多い角化型疥癬の場合や、外用薬の塗布が難しい場合、外用薬で効果が見られない場合、集団感染の場合などに第一選択薬として用いられます。
かゆみに対する治療
・抗ヒスタミン薬の内服:
強いかゆみを抑えるために処方されます。夜間の掻きむしりを防ぐ目的で、眠気のあるタイプが処方されることもあります。
・漢方薬:
湿疹が合併しているなど、炎症やかゆみ、乾燥、体質改善を図る目的で処方する場合があります。
原因菌(ダニ)の特定(顕微鏡検査)
当院では、拡大鏡(ダーモスコープ)で疥癬トンネルの有無や、患部の皮膚の一部(疥癬トンネルの先端や丘疹など)を採取し、顕微鏡でヒゼンダニやその卵、糞便を確認する検査を行います。これにより、他の皮膚病(湿疹、虫刺されなど)との鑑別を行い、確実に疥癬であると診断した上で、適切な治療を開始します。この検査は痛みもほとんどなく、数分で結果が出ます。
当院では、皮膚科専門医である院長が常駐しており、疥癬の診断と治療に関して豊富な経験と知識を持っています。患者さんの症状を正確に診断し、最新の治療法を組み合わせながら、再発を防ぐためのアドバイスや、周囲への感染対策についても丁寧に行います。患者さんが安心して治療に取り組めるよう、きめ細やかなサポートを心がけています。
日常生活でできること・セルフケアのポイント
具体的な対策
疥癬の治療効果を高め、再発を防ぎ、家族や周囲への感染を徹底的に防ぐためには、毎日の正しいセルフケアと生活習慣の見直しが非常に重要です。特に、衣類や寝具の清潔保持と、家族・介護者との連携が不可欠となります。
衣類・寝具の洗濯と乾燥
疥癬治療中は、衣類、下着、シーツ、枕カバー、タオルなど、皮膚に直接触れるものは毎日交換し、清潔なものを使用しましょう。これらのリネン類は、50℃以上の熱湯に10分間以上浸けるか、乾燥機で高温乾燥させることで、ダニを死滅させることができます。通常の洗濯だけではダニは死滅しません。布団や毛布は、天日干しだけでは不十分な場合があるため、布団乾燥機(高温設定)の利用や、可能であれば専門業者によるクリーニングを検討しましょう。
ヒゼンダニは、人の体から離れても2~3日は生存できるため、衣類や寝具に残ったダニが再感染や他者への感染源となる可能性があるため注意が必要です。
室内環境の清掃
室内をこまめに掃除し、ダニの温床となる可能性のあるホコリや皮膚の垢を取り除きましょう。特に、ソファ、カーペット、畳など、人が触れる機会の多い場所は念入りに行いましょう。掃除機をかけるだけではなく、可能な範囲で拭き掃除をすることも有効です。
角化型疥癬の場合、患者さんの皮膚から落ちた大量のダニが環境中に広がり、容易に感染源となるため、徹底した清掃が重要です。
体と皮膚の清潔保持
毎日入浴し、体を清潔に保ちましょう。石鹸で体を優しく洗い、入浴後は水気を丁寧に拭き取り、処方された外用薬や内服薬を指示通りに使用します。角化型疥癬の場合は、皮膚の厚い部分を柔らかくするケアも必要となることがあります。
皮膚を清潔に保つことで、二次的な細菌感染のリスクを減らせます。また、ダニ駆除薬の効果を最大限に引き出すためにも、処方薬の指示通りの使用が不可欠です。
他者への感染予防の徹底
家族、介護者、医療従事者など、感染者と接触する可能性のある人は、細心の注意を払いましょう。疥癬と診断された場合は、診断と同時に家族や周囲への注意喚起と、必要に応じた検査・治療を検討することが非常に重要です。角化型疥癬の場合は、使い捨ての手袋やエプロンを使用するなど、介護者の感染予防策を徹底します。
掻き壊しの防止
・自己判断で薬の使用を中断する:症状が改善したように見えても、ダニが完全に死滅しているとは限りません。医師の指示なく治療を中断すると、再発する可能性が非常に高いため、必ず最後まで治療を続けましょう。
・診断を軽視する:疥癬は他の皮膚病と間違われやすく、診断が遅れると施設内や家族間での感染が広がるリスクが高まります。疑わしい場合は必ず専門医を受診しましょう。
・症状がないからと放置する:ダニの数が少ない通常疥癬では、かゆみが一時的に治まることもありますが、ダニは依然として皮膚に生息しており、治療しない限り自然治癒することはありません。
よくある質問(FAQ)
疥癬は不潔にしているとかかる病気ですか?
いいえ、疥癬は不潔にしているからかかる病気ではありません。どんなに清潔にしている方でも、ヒゼンダニに接触する機会があれば感染する可能性があります。疥癬は主に人から人への直接的な皮膚接触によって感染し、特に介護現場や医療機関、高齢者施設など、人が密接に接する場所で発生しやすい傾向があります。清潔に保つことは症状の悪化を防ぐ上で重要ですが、清潔であること自体が感染を防ぐわけではありません。
疥癬の症状にはどのような特徴がありますか?
疥癬の最も特徴的な症状は、強いかゆみです。特に、夜間、体が温まる時間帯(お風呂上がりや寝床に入った時など)に、かゆみが強くなる傾向があります。これは、ヒゼンダニが夜間に活動が活発になるためと考えられています。かゆみは全身に広がることもありますが、特に指の間、手首、肘、わきの下、お腹、股間、お尻、膝の裏などに強く現れることが多いです。市販の湿疹薬ではかゆみが治まらない場合は、疥癬の可能性があります。
疥癬は、湿疹やアトピー性皮膚炎と見分けがつきにくいと聞きましたが、どうすれば診断できますか?
はい、疥癬の症状は湿疹やアトピー性皮膚炎と非常に似ているため、誤診されることも少なくありません。特に、市販薬やステロイド外用薬を塗っていると、症状が一時的に紛らわしくなることがあります。診断の確定のためには、顕微鏡検査が不可欠です。患部の皮膚の一部(疥癬トンネルの先端や丘疹など)を採取し、顕微鏡でヒゼンダニやその卵、糞便を確認できれば診断が確定します。かゆみが強く、夜間にかゆみが増悪する、家族や周囲に似た症状の人がいる、という場合は疥癬を疑い、皮膚科を受診しましょう。
家族が疥癬と診断されました。うつらないために何をすれば良いですか?
ご家族が疥癬と診断された場合、徹底した感染対策が重要です。
・皮膚接触を避ける:可能であれば、添い寝や直接的な身体接触は避けましょう。
・衣類・寝具の洗濯:感染者が使用した衣類、シーツ、タオルなどは毎日交換し、50℃以上の熱湯に10分間以上浸けるか、乾燥機で高温乾燥させましょう。通常の洗濯だけではダニは死滅しません。
・室内清掃:掃除機をこまめにかけ、ホコリや皮膚の垢を除去しましょう。
・同時治療:症状の有無にかかわらず、家族全員で同時に治療を開始することが推奨される場合があります。これは、症状が出る前の潜伏期間(約1ヶ月)にすでに感染している可能性があるためです。必ず医師に相談し、指示に従ってください。
角化型疥癬(ノルウェー疥癬)とは何ですか?感染力は強いですか?
角化型疥癬は、通常の疥癬よりもはるかに多くのヒゼンダニ(数百万~数億匹)が皮膚に寄生している重症型の疥癬です。皮膚が魚のウロコのように厚くガサガサになり、フケのようにボロボロと皮膚がはがれ落ちるのが特徴です。免疫力が著しく低下している方(高齢者、寝たきりの方、免疫抑制剤使用中の方など)に発症しやすいです。
感染力が非常に強く、短時間の接触や、飛び散った垢(落ちたフケや皮膚片など)を介しても容易に感染が広がるため、集団感染の原因となることが多いです。このため、角化型疥癬と診断された場合は、入院治療や厳重な隔離・感染対策が必要となることがあります。
疥癬の治療期間はどれくらいかかりますか?かゆみが治まっても薬は続けた方が良いですか?
疥癬の治療期間は、通常疥癬で数週間から1ヶ月程度、角化型疥癬ではそれ以上かかることがあります。症状としてのかゆみが治まっても、皮膚の奥にダニが残っている可能性があるため、自己判断で薬を中止するのは絶対に避けてください。医師の指示に従い、処方された期間は治療薬を毎日塗り続け、内服薬も決められた回数・期間服用することが重要です。治療が終了した後も、定期的に再診し、顕微鏡検査でダニがいなくなったことを確認するまで、根気強く治療を継続することが、再発を防ぐために最も大切です。
このような場合はご相談ください
以下のような症状や状況に当てはまる場合は、一人で悩まず、お気軽に当院にご相談ください。
夜間や体が温まる時に特に強いかゆみがあり、市販の薬では治まらない
指の間、手首、肘、わきの下、お腹、股間、お尻などに赤い小さなブツブツや線状の皮疹がある
家族や周囲に、自分と似たようなかゆみや発疹の症状がある人がいる(特に集団生活をしている場合)
皮膚がガサガサと厚くなり、フケのようにボロボロとはがれ落ちるような症状があり、かゆみは少ないが感染が心配
高齢者や寝たきりの方で、原因不明の強いかゆみや皮膚の荒れが見られる
湿疹やアトピー性皮膚炎として治療を受けているが、なかなか改善しない、あるいは悪化している
ペットからのダニ感染が心配な方
疥癬の診断を受けたが、治療法や日常生活での注意点、家族への感染予防について詳しく知りたい
24時間WEB予約受付中
疥癬は、正確な診断と、医師の指示に基づいた適切な治療、そして根気強いセルフケアを行うことで、必ず治癒が期待できます。当院の皮膚科専門医が、患者さん一人ひとりの症状と状況を正確に診断し、最適な治療法と生活指導をご提案いたします。周囲への感染対策についても丁寧にご説明しますので、「ここに来れば大丈夫」と安心していただけるよう、全力でサポートさせていただきます。どんな些細なことでもお声がけください。
監修医情報
略歴
-
2003年
名古屋工業大学 卒業後
愛知県名古屋市の建築設計会社 勤務 -
2008年
琉球大学医学部 入学
-
2014年
ハートライフ病院 初期研修
-
2016年
琉球大学皮膚科 入局
皮膚科学講座助教、病棟医長を経て、 -
2023年
沖縄皮膚科医院 開業
資格・所属学会
- 日本皮膚科学会
- 日本小児皮膚科学会
- 日本アレルギー学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本皮膚悪性腫瘍学会
- 日本皮膚免疫アレルギー学会
- 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
- 日本皮膚科学会認定皮膚科指導医
- 難病指導医
- 小児慢性特定疾病指定医