皮膚の病気はとても数が多く、また診察時にすべてをお話しすることは難しいため、よくある病気の説明を記載しています。当院を受診される患者様の疾患理解と治療の一助となれば幸いです。気になることがあれば診察中に医師、看護師までお声かけください。
とこずれ・褥瘡とは
長時間の圧迫や摩擦によって生じる皮膚とその下の組織の損傷。
治療は長期に及ぶことが多く、体位変換などの除圧(長期間の圧迫を避ける)と栄養管理が非常に大切。
とこずれは、医学的には褥瘡(じょくそう)と呼ばれ、寝たきりなどによって体の同じ場所に長期間圧力がかかり続けたり、摩擦やズレが生じたりすることで、皮膚の組織が損傷し、潰瘍(かいよう)や壊死(えし)を起こす病気です。骨が突出している部分(仙骨部、坐骨、大転子部、踵、肩甲骨、後頭部など)にできやすく、持続的な圧迫によって皮膚の血流が悪くなり、細胞に十分な酸素や栄養が届かなくなることが主な原因です。
褥瘡は、初期段階では皮膚の赤みや圧迫後の発赤が消えない状態(I度)ですが、進行すると水ぶくれ(II度)、さらに皮膚が深くえぐれた潰瘍(III度)となり、最終的には骨や筋肉、腱が見えるほど深く損傷したり、組織が黒く壊死したりする(IV度)こともあります。深い褥瘡は強い痛みを伴うだけでなく、細菌感染を起こしやすく、重症化すると全身に影響が及び、命に関わる場合もあります。褥瘡は一度できてしまうと治りにくく、長期的な治療が必要となることが多いため、予防が何よりも重要です。早期に皮膚科専門医の診断を受け、適切な治療とケアを開始することが、症状の悪化を防ぎ、治癒を促進するために非常に重要です。
とこずれ・褥瘡の主な原因と誘発要因
ポイント
褥瘡は、主に「圧迫」「摩擦」「ズレ」の3つの力と、それに加えて患者さんの全身状態が複合的に絡み合って発生・悪化します。
主な原因
・圧迫(持続的な圧力):
体の同じ部分がベッドや車椅子などに長時間接触することで、その部位の毛細血管が圧迫され、血流が悪くなります。これにより、皮膚や皮下組織の細胞に酸素や栄養が届かなくなり、組織が死んでしまう(虚血性壊死)ことで褥瘡が発生します。特に骨が突出している部分(仙骨部、坐骨、大転子部、踵、肩甲骨、後頭部など)は、圧力が集中しやすいため、褥瘡ができやすい部位です。
・摩擦(まさつ):
皮膚と寝具や衣類がこすれることで、皮膚の表面が損傷します。皮膚のバリア機能が低下し、炎症が起こりやすくなります。
・ズレ:
ベッドのギャッジアップ(上半身の起き上がり)などで体勢を変える際、皮膚はそのまま残ろうとする一方で、骨や深部組織が下にずれることで、皮膚の内部で血管が引き裂かれ、血流障害が起こります。これは、表面からは見えにくい深い褥瘡の原因となることがあります。
日常生活で症状を悪化させる誘発要因
・寝たきり状態:自力での体位変換が難しい方や、麻痺がある方、意識障害のある方などは、特定の部位に圧力がかかり続けるため、褥瘡のリスクが非常に高くなります。
・低栄養状態:食事が十分に摂れず、タンパク質やビタミン、ミネラルなどが不足していると、皮膚の再生能力が低下し、褥瘡ができやすくなったり、治りにくくなったりします。
・やせすぎ(低体重):皮下脂肪や筋肉が少ない方は、骨が突出して皮膚と寝具との間にクッションがないため、圧力が集中しやすく、褥瘡ができやすくなります。
・排泄物による汚染(湿潤):尿や便失禁により皮膚が常に湿った状態になると、皮膚がふやけて弱くなり(浸軟)、細菌が繁殖しやすくなるため、褥瘡ができやすくなったり、悪化したりします。
・浮腫(むくみ):むくみがある皮膚は、血流が悪くなりがちで、わずかな圧力でも組織が損傷しやすくなります。
・糖尿病などの基礎疾患:糖尿病や動脈硬化症など、血行障害を伴う病気がある方は、皮膚の組織が脆弱で、褥瘡ができやすく、治りにくい傾向があります。
・加齢:高齢になると皮膚の弾力性が失われ、乾燥しやすくなり、皮膚が弱くなるため、褥瘡のリスクが高まります。
・発熱:発熱時は代謝が亢進し、皮膚の酸素需要が増すため、褥瘡が悪化しやすくなります。
「とこずれは一度できると治らない」「清潔にしていれば大丈夫」といった誤解がありますが、適切なケアと治療、そして予防策を講じることで、改善が見込めます。原因を理解し、早期に対策を講じることが重要です。
とこずれ・褥瘡の治療法
主な治療法
褥瘡の治療は、進行を止める、症状を改善させる、感染を防ぐ、そして何よりも治癒を促進させることが主な目的です。褥瘡は多岐にわたる要因が絡み合って発生するため、単に患部の治療だけでなく、患者さん全体の状態を考慮した総合的なアプローチが必要です。
体圧分散ケア(褥瘡予防・悪化防止の基本)
・体位変換:
寝たきりの方の場合、2時間ごとに体位変換を行い、同じ部位に圧力がかかり続けないようにします。車椅子の場合は、15~30分ごとに座り直すなど、定期的な体圧解除を行います。
・体圧分散寝具の活用:
エアーマットレスやウレタンマットレスなど、体圧を分散させる効果のある特殊な寝具を使用します。これにより、特定の部位への圧力を軽減し、血流の改善を促します。
・クッションの使用:
骨突出部位(仙骨部、かかとなど)には、ドーナツ型やジェルタイプのクッションなどを活用し、圧力を避ける工夫をします。
局所治療(患部のケア)
・洗浄:
患部を清潔に保つことが重要です。生理食塩水や微温湯で優しく洗浄し、汚染や細菌の繁殖を防ぎます。
・デブリードマン(壊死組織の除去):
黒く壊死した組織や感染した組織は、治癒を妨げるため、メスやハサミ、あるいは特殊な薬剤(壊死組織溶解剤)を用いて除去します。
・被覆材(ドレッシング材)の使用:
褥瘡の状態(滲出液の量、深さ、感染の有無など)に合わせて、様々な種類の被覆材を選択します。
・ハイドロコロイド、ポリウレタンフォーム、アルギン酸塩、ハイドロファイバーなど:適切な湿潤環境を保ち、治癒を促進します。滲出液の管理、細菌感染の予防、痛み軽減などの目的があります。
・抗菌作用のある被覆材:感染が疑われる場合に使用されます。
薬物療法
・外用薬:
褥瘡の炎症を抑えたり、肉芽形成(新しい組織の形成)を促したり、細菌感染を防ぐ目的で、軟膏やクリームが処方されます。
・内服薬:
細菌感染が広範囲に及んでいる場合や、発熱などの全身症状を伴う場合は、抗菌薬が処方されます。痛みが強い場合は、鎮痛剤を使用することもあります。
・漢方薬:
抗炎症、血行促進を促す目的で処方する場合があります。
栄養管理
・栄養状態の改善:
皮膚の再生には、十分なタンパク質、ビタミン(特にビタミンC)、ミネラル(亜鉛など)が必要です。食事からの摂取が難しい場合は、高カロリー・高タンパク質の栄養補助食品や、点滴による栄養補給を検討します。
・適切な水分補給:
体の水分量を適切に保つことも、皮膚の健康維持に重要です。
合併症の予防と治療
・感染症の管理:
細菌感染を起こしている場合は、適切に抗菌薬を使用し、感染をコントロールします。
・痛みへの対応:
痛みは患者さんのQOLを著しく低下させるため、積極的に痛みを和らげる治療を行います。
手術療法
深い褥瘡や広範囲の褥瘡、慢性的に治らない褥瘡の場合、外科的な切除や植皮術、皮弁形成術などが検討されることがあります。
当院では、皮膚科専門医である院長が常駐しており、褥瘡の診断と治療に関して豊富な経験と知識を持っています。患者さんが安心して治療に取り組めるよう、丁寧な説明とサポートを心がけています。
日常生活でできること・セルフケアのポイント
具体的な対策
とこずれ・褥瘡の発生を防ぎ、すでにできてしまった症状の悪化を食い止め、治癒を促進するためには、毎日の正しいセルフケアが非常に重要です。医療従事者だけでなく、ご家族や介護者の方々の協力が不可欠となります。
体圧分散と体位変換の徹底
同じ場所に圧力がかかり続けないように、定期的に体位を変換しましょう。
・寝たきりの方:最低でも2時間ごとに体位を変換し、圧力が集中する部位を変えましょう。横向き寝、仰向け寝、半座位など、様々な体位を組み合わせて行います。その際、骨が突出している部分(仙骨部、坐骨、大転子部、踵、肩甲骨、後頭部など)が直接圧迫されないように、クッションやタオルなどを挟んで工夫しましょう。
・車椅子の方:15~30分ごとに座り直して、お尻の圧力を解除したり、肘かけに体重を預けたりして、圧力のかかる部位を変えましょう。
・体圧分散寝具の利用:エアーマットレスや低反発ウレタンマットレスなど、体圧を分散させる効果のある寝具を活用しましょう。
持続的な圧力は血流を阻害し、組織の壊死を引き起こします。定期的な体位変換は血流を回復させ、褥瘡の発生や悪化を防ぎます。
皮膚の清潔と乾燥、保湿
常に皮膚を清潔に保ち、過度な乾燥や湿潤を防ぎましょう。汗や排泄物で汚れたら、すぐに優しく拭き取り、ぬるま湯で洗い流しましょう。石鹸を使う場合は低刺激性のものを少量使い、よく洗い流します。洗った後は、タオルで軽く押さえるように水気を拭き取り、完全に乾燥させましょう。乾燥が気になる場合は、保湿剤で皮膚に潤いを与えます。
皮膚が湿った状態は、ふやけて弱くなり(浸軟)、細菌が繁殖しやすくなるため、褥瘡ができやすくなります。また、乾燥した皮膚はバリア機能が低下し、刺激に弱くなります。
摩擦とズレの軽減
摩擦やズレは、皮膚の表面や深部組織にダメージを与え、褥瘡の原因となります。寝具や衣類との摩擦、体位変換時のずれを最小限に抑えましょう。
・体位変換時:患者さんの体を持ち上げるようにして移動させ、皮膚が寝具の上を滑る「ズレ」を防ぎましょう。シーツはしわがないようにピンと張りましょう。
・衣類:ゆったりとした肌触りの良い綿素材の衣類を選び、下着や寝具の縫い目、ボタンなどが皮膚に当たらないように注意しましょう。
栄養状態の改善
十分な栄養を摂り、特にタンパク質、ビタミン、ミネラルを意識的に摂取しましょう。食事が十分に摂れない場合は、高カロリー・高タンパクの栄養補助食品を活用したり、少量でも栄養価の高いものを工夫して摂るようにしましょう。
褥瘡の治癒には、新しい皮膚や組織を作るための栄養素が不可欠です。低栄養状態では、褥瘡ができやすく、治りにくくなります。
排泄物の管理
尿や便失禁がある場合は、こまめにおむつ交換や清拭を行い、皮膚への汚染を最小限に抑えましょう。吸収性の良いおむつを選び、汚れたらすぐに交換し、清潔な状態を保ちます。皮膚保護剤を塗布することも有効です。
排泄物に含まれる酵素やアンモニアは皮膚を刺激し、皮膚炎や褥瘡を悪化させる原因となります。
やってはいけないこと・避けるべきこと
・ドーナツ型クッションの使用:
褥瘡ができた部位にドーナツ型クッションを使用すると、かえって周囲の血流を阻害し、症状を悪化させる可能性があるため、避けるべきです。必ず医師や看護師の指導のもと、適切な体圧分散用品を使用しましょう。
・マッサージ:
発赤や潰瘍ができている部位を強くマッサージすると、皮膚や組織をさらに損傷させる可能性があります。
・自己判断での処置:
専門的な知識なしに自己判断で薬を塗ったり、絆創膏を貼ったりすると、感染を悪化させたり、治癒を遅らせたりすることがあります。必ず医師や看護師の指示に従いましょう。
・皮膚を濡れたまま放置する:湿潤な環境は細菌繁殖の原因となります。
よくある質問(FAQ)
とこずれ・褥瘡は一度できてしまうと治らないと聞きましたが、本当ですか?
いいえ、とこずれ・褥瘡は適切な治療とケアを継続すれば治る可能性のある病気です。しかし、一度できてしまうと治りにくく、長期的なケアが必要になることが多いのは事実です。特に、深さや広さがある褥瘡、感染を併発している褥瘡は、治療に時間がかかります。早期に発見し、適切な治療と予防策を講じることが、治癒を促進し、悪化を防ぐために非常に重要です。
とこずれ・褥瘡はどのくらいの時間でできますか?
とこずれ・褥瘡は、わずか数時間程度の圧迫でも発生する可能性があります。特に、麻痺がある方や意識がない方、痩せている方、栄養状態が悪い方など、リスクの高い方は、短時間の体位固定でも皮膚にダメージが生じることがあります。そのため、寝たきりの方や車椅子を利用されている方には、定期的な体位変換や体圧分散寝具の利用など、継続的な予防ケアが非常に重要となります。
とこずれ・褥瘡ができた場合、家族が家庭でできるケアはありますか?
はい、ご家族の方による日々のケアは、褥瘡の治癒と予防に非常に重要です。
・体位変換の徹底:医師や看護師の指導を受け、2時間ごとの体位変換を継続しましょう。
・皮膚の清潔・乾燥・保湿:汗や排泄物で汚れたらすぐに優しく洗浄し、しっかり乾燥させ、必要に応じて保湿剤を塗布しましょう。
・摩擦・ズレの軽減:シーツのしわをなくす、体を持ち上げるように移動させるなど、摩擦やズレを防ぐ工夫をしましょう。
・栄養管理:医師や管理栄養士の指導に基づき、バランスの取れた食事や栄養補助食品で、十分な栄養を摂れるようにサポートしましょう。
ただし、褥瘡の処置や被覆材の選択は専門知識が必要です。自己判断をせず、必ず皮膚科医や訪問看護師の指示に従い、適切なケアを行いましょう。
褥瘡が赤くなっていますが、これはどういう状態ですか?
褥瘡の初期段階(I度)では、皮膚が赤くなる(発赤)ことが最も特徴的な症状です。この赤みは、圧迫を取り除いても30分以上消えない場合、褥瘡のサインである可能性が高いです。放置すると症状が進行し、水ぶくれや潰瘍になるリスクがあります。この段階で早期に発見し、体圧分散や適切なスキンケアを開始することができれば、悪化を防ぎ、治癒を早めることが期待できます。少しでも気になる赤みを見つけたら、早めに皮膚科にご相談ください。
褥瘡の治療は保険が適用されますか?
はい、褥瘡のほとんどの治療は保険適用となります。診察、検査、処置、外用薬や内服薬の処方、体圧分散寝具のレンタル(医師の指示に基づく)なども、原則として保険診療の対象となります。ただし、一部の特殊な被覆材や治療法、また患者さんの状態によっては、自費診療となるケースもあります。治療内容や費用については、診察時に医師から詳しく説明させていただきますのでご安心ください。
このような場合はご相談ください
以下のような症状や状況に当てはまる場合は、一人で悩まず、お気軽に当院にご相談ください。
寝たきりや車椅子生活の方で、体の特定の部位(仙骨部、坐骨、大転子部、踵、肩甲骨、後頭部など)に赤みがある、または圧迫を取り除いても赤みが消えない
皮膚に水ぶくれができた、または皮膚がえぐれて潰瘍になっている
褥瘡の部位から悪臭がする、膿が出ている、熱を持っているなど、感染の兆候が見られる
褥瘡ができてしまい、どのようにケアすれば良いか分からない
褥瘡の痛みが強く、日常生活に支障が出ている
ご自身やご家族が褥瘡のリスクが高い状態にある(寝たきり、痩せすぎ、栄養状態が悪い、排泄物の管理が難しいなど)
現在の褥瘡の治療やケア方法について相談したい、または専門医の意見を聞きたい
褥瘡の予防策について詳しく知りたい、具体的なアドバイスが欲しい
褥瘡は、放置すると重症化し、患者さんの身体的・精神的な負担が大きくなるだけでなく、命に関わることもあります。当院の皮膚科専門医が、患者さんの褥瘡の状態を正確に診断し、最適な治療法と予防策をご提案いたします。看護師や管理栄養士などと連携した多角的なサポートも可能です。「ここに来れば大丈夫」と安心していただけるよう、全力でサポートさせていただきますので、どんな些細なことでもお声がけください。
監修医情報
略歴
-
2003年
名古屋工業大学 卒業後
愛知県名古屋市の建築設計会社 勤務 -
2008年
琉球大学医学部 入学
-
2014年
ハートライフ病院 初期研修
-
2016年
琉球大学皮膚科 入局
皮膚科学講座助教、病棟医長を経て、 -
2023年
沖縄皮膚科医院 開業
資格・所属学会
- 日本皮膚科学会
- 日本小児皮膚科学会
- 日本アレルギー学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本皮膚悪性腫瘍学会
- 日本皮膚免疫アレルギー学会
- 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
- 日本皮膚科学会認定皮膚科指導医
- 難病指導医
- 小児慢性特定疾病指定医